一つ、また一つと。暮らしに寄り添う家具たち
2018年9月に一軒家が完成。オーダーしたオーバルテーブルとハイスツールが届きました。無垢材で作り上げた家にnineの家具が馴染み、小林さんの思い描いた家ができあがった瞬間でした。
しかし、小林さんとnineの関係は、ここでは終わりません。2年後にはテレビ台とローテーブルを、さらに2年後には、オットマンを依頼することになるのです。

籐張りにして扉を閉めたままでもリモコン操作ができるようにしたテレビ台。

レコードとCDの高さにぴったりと合わせた。収納物によってサイズを変えられるのもオーダーならでは。

ローテーブルはソファと同じ高さ・幅にしてサイドテーブルとしても活躍。

オットマンは浩子さんが好きなミナ ペルホネンの生地を使って。
「nineさんは仕事が細かくて丁寧で。だから、納品時には次もお願いしようと決めていました」
暮らしてみて必要な家具を一つずつ。自分たちの使い方をよく考えて、長く愛せるものを。そうやって時間をかけて増やしていった家具は、どれも小林さん夫妻の暮らしに馴染んでいました。
それほど家と家具が調和しているからこそ、関東に住むお子さんたちには「自分たちがこの家に住まなくなったら、家具付きで売ってほしい」と伝えているそうです。この家はふたり暮らし用に作ったから、子どもたちはおそらく使わない。誰かの手に渡る際には、家とコーディネートして作った家具も合わせて委ねてほしい。家具と家は、もう切り離せないものになっていたのです。

その考え方はお知り合いの方にも。ご友人やお知り合い、設計士を介して紹介された方など、小林家にはさまざまな人が訪れます。そんなとき、つい家具の大切さについても語ってしまうそうです。
「この前、主人の会社の新婚の方がいらして、『家具はね、一生使うものだから絶対に妥協しないほうがいいよ』と伝えました。とにかく物が必要なときって、安い方に安い方にって気持ちがいってしまうけど、家具は一生ものだから」
そう語る浩子さんの言葉には、ふたりが悩みながらも選択してきた家づくりと家具へのこだわりが見えるようです。毎日使うものこそ、本当に自分たちが好きなものを。その信念が心に余裕と彩りを与えているようでした。
家の中から自然を楽しむ。浩子さんの庭づくり

新潟市南区のとみい造景が手がけた、石を用いた庭
nineのオーバルテーブルがあるダイニング。大きな窓の向こうに見えるのは、浩子さんが大切にしている中庭です。この庭は、家を建てるときから「必ずつくろう」と決めていた場所です。
「少しでもいいから庭をつくろうと思っていました。家から緑が見えたら、心が穏やかになるんじゃないかなって。若いときはあまり興味がなかったんですけど、六日町に家を建てたときから少しずつ庭いじりをするようになりました。母が花を育てるのが好きだったことも影響しているかもしれませんね」
好きな花を育てて、家のいたるところに野花を飾る小林さん。いまは友人を集めてリース作りのワークショップも開催しています。もともとは子育てをしているときにママ友が教えてくれたもの。一軒家に住むようになって、自分で育てた花を使うようになってから、リース作りがさらに楽しくなったといいます。

動き続ける、今を楽しむ暮らし
小林さん夫妻が意識的に取り組んでいることはもうひとつ。それは、運動です。ふたりは毎日スポーツクラブに通い、一幸さんは会社までの2.7kmを歩いて通っています。
「東京にいた時はもう、否応なく歩くじゃないですか。駅も階段上り下りして、電車に立って乗って。こっちに来て車ばかりになると、歩かなくなるので」と一幸さん。

家の窓から水道公園の水道タンクが見えるように設計。散歩をすることもある。
土日の朝は、ふたりで散歩してアオーレ長岡*へ。6時半から始まる体操に参加して、その後7時開店のパン屋さんで焼きたてのパンを買って帰ってくるのが、週末のルーティンです。
*アオーレ長岡:長岡駅近くにある市役所も入った複合型施設
「60過ぎたらね、来年どうなるかわからない。最近、同世代で突然病気になったり、亡くなってしまう人が増えて、より実感しています。だから今を楽しむ。“今できること”を“今やる”を意識しています」
その言葉通り、今年は初めてフジロックフェスティバルにも参加しました。「山下達郎が出るって知って、一度は見てみたいなって。外は気持ちいいし、大雨に降られたけど、それはそれでいい経験でした」と一幸さんは少年のような顔で笑みを綻ばせます。

「明日死ぬかもしれない。明日、余命半年ですって宣告されるかもしれない。そう思うんですよ、本当に」
だからこそ、来年じゃなくて今年。今度じゃなくて今日。やりたいことを、できるうちにやる。その積み重ねが人生を楽しむコツなのかもしれません。
取材を終えて
小林さん夫妻を訪ねて印象的だったのは、庭との向き合い方です。日々の手入れを苦とせず、季節ごとに咲く花を大切にして、野花を室内にもいくつも飾る。そんな浩子さんから感じたのは、自然を当たり前のように暮らしに取り込む姿勢でした。
そして、nineを選ぶ理由も、実はここと繋がっているのかもしれません。
庭を愛する人だからこそ、無垢材の家具に自然を見出し、家の中に取り入れる。木目の美しさ、手触りの温かさ、経年変化。庭の花々が季節ごとに表情を変えるように、家具もまた時を重ねるごとに味わいを増していきます。
傷も色も変わっていく。その変化を受け入れながら、家とともに生きていく。だからこそ、家で過ごす時間が、最良の時間となるのではないでしょうか。
小林さん夫妻の”好き”と”心地よさ”はそんな無意識の延長線上で静かに結びついているように感じました。
Interview&Photography:
Madoka Hasegawa(Editor / Writer)
