冬になると、2〜3mもの雪が積もる新潟県小千谷市。
ここにU-zhaanやCaravan、ハナレグミなど、全国的に知られるアーティストを招き、「極楽パンチ」というイベントを開催している寺院「極楽寺」があります。
今回お話を伺ったのは、400年の歴史を持つこの寺院で19代目の住職を務める麻田弘潤さん。消しゴムはんこ作家としても活動し、「ひらかれたお寺」として独自の歩みを続けてきました。
そんな麻田さんが、自宅と寺院のリノベーションに際して選んだのが、家具工房nine。nineの家具は、訪れる人々の肩の力をそっと抜いて、いつの間にか会話を弾ませてくれる、そんな存在になっているといいます。
麻田さんのお話を伺いながら、家具が人の心に寄り添うということの意味を、ゆっくりと考える時間になりました。
キャンドルアーティストを通じた、nineとの出会い

麻田さんが「極楽パンチ」を始めたのは、2006年。きっかけは2004年に発生した新潟県中越地震の際にお寺を避難所として開放したことでした。震災後、町内にある幼稚園が避難所になっていましたが、耐震強度に問題があることがわかると、先代の住職は本堂を開放。その年の春にお寺の修理が完成したばかりだったので、耐震強度にも問題ありませんでした。
その繋がりで、小千谷市内の方が1ヶ月後に山を貸し切って復興音楽イベントをしたいので宿泊所としてお寺を使わせてほしいと依頼。しかし、イベントは頓挫してしまったため、麻田さんは「お寺で音楽イベントをしてみては」と提案します。
これが、今でも続く「極楽パンチ」のはじまりでした。

「エコ」をテーマにほとんどゴミの出ないイベント運営を目指す(画像提供:極楽寺)
昼は境内でフリーマーケット、夜はお寺の古い蝋燭をリメイクしたキャンドルで演出するキャンドルナイトライブ。ライブ中には中越地震で被害に遭われた方々への追悼の読経も行われています。
極楽パンチにとって欠かすことのできないキャンドル。そのキャンドルを作っている馬場一樹さんが、麻田さんとnineを繋げてくれた人物でした。
「2010年くらいですかね。長岡市内のイベントで馬場さんがnineさんを紹介してくれて。その後、極楽パンチに出店してもらうようになったんです。バターナイフを作るワークショップをしたり、小物を販売したり。まだテーブルや椅子などの大きめの家具は見ていなかったのですが、子ども用の椅子を見てかわいいな、リノベーションするときはいつかお願いしたいなと思っていました」

柔らかな笑みを浮かべながら取材に応じてくれた、麻田弘潤さんと真理子さん
「全部一緒だとつまらない」。木材の変化を取り入れたリビングづくり
そのタイミングは6年後にやってきます。2016年に住職を継いだときに、それまで一緒に暮らしていた両親と別々に暮らすこととなり、自宅の生活スペースを新しく作ることになりました。そのとき、真っ先に浮かんだのがnineのこと。リノベーションの話が出始めたときから、nineの家具を入れたいと話し合っていたそうです。
設計の図面が出来上がる前から、nineのショップへ。実際に使われている椅子やテーブルを見ながら、大きなカウンターテーブルに合わせるベンチと椅子、ローテーブルを依頼。打ち合わせを進めるなかでnineは「床材と家具の樹種を一緒にする必要はないこと」、「経年変化でいずれ馴染んでくるので好みを優先してほしいこと」を提案します。

すると、麻田さんは、ベンチと椅子にはブラックウォルナット、スツールとローテーブルにはオークと、異なる樹種を選びました。加えて、ローテーブルにはあえて節のあるものを。そこには麻田さんのこだわりが詰まっていました。
「全部一緒だとつまらないなって思って。だから、それぞれ違う木を使ってもらったんです。節もツルツルじゃなくて、ちょっとだけ癖があった方がいい。綺麗すぎない、自然な感じが欲しかったので」と振り返ります。

節のあるナラの自然な表情
中でも印象的だったのが、1900mmのアイアンレッグベンチ。当時まだ小さかった3人のお子さんが並んで座れるようにと大きなベンチを考えていました。

カウンターも含めて木材が多かったので、他の素材である“鉄”を入れたかったという
実は、アイアンレッグベンチはnineの定番ベンチだったのですが(※)、それは4本脚の1300mmのもの。ただ、1900mmで4本脚だと不安定になるので、6本脚で作ることになりました。
座面はファブリック。布の下にはベニヤを貼ってありますが、これよりサイズが大きくなるとより大きな規格のベニヤを使用する必要があり、金額がぐんと上がる。その点も伝え、なんとかサイズ内に抑えての製作となりました。
※鉄脚の作り手さんの廃業により、残念ながら2025年現在は注文を受けておりません
