重たい空気を、軽やかな雰囲気に。家具で生まれる新たなつながり
もうひとつ。麻田さんは本堂の控室にある座卓もずっと気掛かりに思っていました。
「法事のとき、よくお寺にある黒い座卓に座布団を敷いてお茶を出していたのですが、重たい空気になってしまって。みなさん緊張してしまうので会話が弾まないんです」
空気が重いと、誰もが言葉を選び、身を固くする。その状況を変えたいという思いから本堂の座卓も変えることにしました。
家具選びで最優先したのは「軽さ」。イベントのたびにテーブルを動かす必要があるため、畳を傷つけないことも大切でした。その話を聞いてnineが提案したのは、クリ材。上品な木目が本堂の厳かな佇まいにもすっと馴染みました。

さらに、麻田さんは椅子の形状にもこだわりました。ご年配の方が多いので移動しやすいように肘掛けをなくし、畳を傷つけないようにスキー板のような「畳ずり」をつけたのです。

4本脚だと畳に食い込んでしまうため、畳ずりを採用した
nineのダイニングテーブルとチェアが届くと、お寺の空気が変わりました。
「みなさんの滞在時間が増えたんです。30分、1時間と平気でいてくださるようになって。以前から来てくださっている方は、『楽になった』と言ってくださります」
正座しなくていいから、体が楽。法事の後の本堂でお茶を飲む時間に、自然と会話が弾み、笑い声が聞こえるようになったのです。
「家具が会話のきっかけになることもあるんです。この椅子いいねって触る方がいたり、家具が好きな人はnineさんだと分かるみたいで、『これってまさか』と言って、下を覗き込む方がいたり。家具を通じて、檀家さんも次の世代の方に興味を持ってもらいやすくなって。お寺としてもありがたい限りです」

お茶道具を入れておく水屋も、籐張りと真鍮を使って優しい雰囲気に

椅子が足りない場合や座卓がいい場合はちゃぶ台へ。こちらはナラ材で雰囲気のある仕上がりに
目的を理解して伴走してくれる、nineの存在
もし他の家具屋さんだったら、どうだったでしょうか。そう尋ねると、麻田さんは少し考えてから、こう答えてくださいました。
「こんだけ言っても応えてくれる、新しいチャレンジを応援してくれる。こっちがどういうものを求めてるのか、何を目指しているかを知っていてくれるんです」

お寺だから座卓がいい。お寺だから無垢材よりも黒で塗装したほうがいい。
そういった固定概念を持たず、「ひらかれたお寺」として奮闘する麻田さんを知っているからこそ。家具を通じて、人がつながる場を一緒に作ってくれる。それがnineなんだと、麻田さんは語ってくださいました。
取材を終えて
お話を伺うと、nineの無垢材の家具は、訪れた人の心をほぐして、自然と会話を生み出しているようでした。
「ひらかれたお寺」として歩んできた麻田さんの思いが、nineの家具を通して、より多くの人に届くようになりました。イベントだけでなく、ふらりと立ち寄った日常の中でも。
人が集まる場所を作りたいと思ったとき、大切なのは立派な建物でも高価な調度品でもなく、そこに流れる空気や、人々の自然な笑顔なのだと。極楽寺の穏やかな時間が教えてくれているような気がしました。
Interview&Photography:
Madoka Hasegawa(Editor / Writer)
